然然




 突然だが、この数字が何を意味するかおわかりだろうか。わかるまい。が、この数字は「然然」氏を語るうえで 欠かせないものである。数字の謎はあとにまわすとして、まずは氏のおおいなる 人柄から解説していこう。
 その一、1ビット。実社会の厳しさを身をもって知って おられる氏は、ことあるごとにわれわれ若輩に対し以下のような訓戒をもたらした。

「君達には1ビットのミスも許されない!」

 おっしゃるとおりである。いまやコンピュータを使わない仕事など ほとんど見当たらず、それどころかプログラムの出来が人の命を左右することが 多々ある時代だ。氏の言葉はまったく正しい。おっしゃるとおりである。その 証拠に、氏の配布 されたプリントを見るがいい。ミスプリの嵐だ。氏は 身をもってわれわれを導いて下さっているに違いないのである。
 その二、日本語。実社会の厳しさを身をもって知って おられる氏は、顧客とのやりとりに欠かせない「日本語」についてもことのほか 厳しく、折りをみては演説口調で叫ぶのだ。

「君達の日本語は貧弱である!
漫画ばかり読まずにちゃんとした本を読みなさい!」

 われわれの語彙力のなさを嘆いての言葉である。反論の余地もない。氏の言葉は まったく正しい。その証拠に、われわれに力がないばっかりに われわれには氏の日本語がさっぱり理解できない。いや、 おそらく誰にも理解できまい。
 その三、常識。実社会の厳しさを身をもって知って おられる氏は、社会人として必須の心得である常識についても声高に語るのだ。

「社会に出たら常識のない人間は…」

 続きはいまさら聞くまでもない。氏はいつでも正しいのだ。しかしせっかくの氏の お言葉である。いま少し拝聴させていただこう。

「こんなものは馬鹿でも●●●でも…」

おおっと、テレポーター。

 常識人である氏が、上記のような差別用語を、こともあろうに教育の現場で 口にしてしまったのだ。あまりのことにわれわれの眠気は瞬速で吹き飛んだ。 これはどういうことなんだ? 氏は単なる凡人だったのか、それとも醜い 偽善者だったのだろうか…?
 …いやいや、氏もわれわれと同じ人間である。たまには口が滑ることもあるのだ ろう、そうに違いない。われわれはそう考えてどうにか気を落ち着かせたのだが、この2年間 に氏は5回も口を滑らせた。氏の言動に疑問を感じ始めた生徒は多いという…。


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