取調室・その2



「……そろそろしゃべったらどうだ?」
「へっへっ、旦那よお、取調べっていったら丼ものだろ? おれはあの丼を待ってるのよ」
「なに、丼ものごときでしゃべってくれるというのか?」
「しゃべるかもしれねえぜ」
 数分後、銀俵は出前の岡持ちを持って戻ってきた。
「カツ丼、しかなかった」
「いいねえ」
「丼ものがよかったんだろう? 望みどおりにできなくて悪かったな」
「何わけわかんねえこと言ってんだよ。早く食わせてくれ。ずっと冷てえ飯ばっかりでうんざりしてんだ」
 銀俵はやれやれといって岡持ちから丼を取り出し、机に置いた。それを見た容疑者は目を丸くした。
「……なんだよそれ」
「丼ものだ」
「おい、カツ丼って言ってなかったか?」
「そうだカツ丼だった。余計なものが乗っていたので食べておいた」
「……ぁあ?」
「ただの丼ものは置いていないそうだ。だから仕方なくカツ丼をな……しかも取り調べのときのクセでつい特上を注文してしまった」
「おい」
「カツは全部食べておいたから安心しろ。見かけはただの丼ものそっくりだ」
「お……」
「ああそうだ、ちゃんと領収書を書いてもらったから、あとで払っておいてくれ」
「……は?」
「おまえさんの注文だからおまえさんが払うんだ。しかし高かったなあ。3000円もした」
「ぼったくりじゃねえかっ」
「特上だからな。たぶん3000円のうち2900円がカツの値段だ」
「ひでえ……」
「おかげで今日の昼飯はいいものが食えた。明日も丼ものにしような」
「わかったよ話す! 全部話すから丼はやめてくれ」
「まだ話さなくていいぞ。時間はたっぷりある」


「銀俵」へ