ファンタスティック・フォー



 知る人ぞ知るアメコミ(アメリカン・コミック)の1つであるファンタスティック・フォー。これがプレステ用ゲームになっているのをご存知だろうか。知るはずもないか。

 私はこのゲームを買った。べつにファンだから買ったわけではない。たまたまネタになりそうなクソゲーはないかと中古ゲーム屋を数年ぶりに探索した結果、運悪く手に取ってしまったのがコレだったのだ。そんな名前のアメコミがあったっけ、程度の知識しかない私がこのゲームをつい買ってしまったのにはわけがある。パッケージ裏面の解説がハジけまくっていたのだ。おもな突っ込みどころをご紹介しよう。

「あのミスターファンタスティック、インビジブルウーマン、ヒューマン・トーチらが…」
    …あと一人なんだから名前を挙げてやれ。

「大混乱のストーリー展開。興奮が止まらない!」
    混乱させてどうする。

「本物の感動…本物のパワー!」
    いまどき売れない手品師だってこんな売り文句は使うまい。

「クラッシュ! バーン! そして人間松明!」
    もはや意味がわからん。なおすぐに思い当たったのだが、人間松明とはキャラの一人であるヒューマン・トーチの直訳だろう。名前を強引に訳されてしまった彼の哀れぶりったらない。



 こうして一抹の不安とともに購入することになったわけだが、予想に反してと言おうか、予想通りと言おうか、とにかくネタだらけだったので以下、プレイレビューを書いてみたい。
  1. ゲーム開始まで
     電源を入れるとおなじみのプレステのロゴが出てきた。続いて製作会社のものらしいロゴ。それから英語の注意書きだか何かが表示され、続けてどこかの会社のロゴ。続いてロゴ。続いて…って一体何社が関わっているのだ。

     ようやくタイトル画面へ。ところがなんとここからなかなか先に進めない。設定画面に行っても設定できずにタイトル画面に戻ってしまうし、キャラクタ選択画面でキャラを選択したつもりがまたタイトルに逆戻りなのだ。今時のゲームなら基本的な操作くらいは直感的にわかるだろうと説明書を見ないでいたのだが、どうやら甘かったらしい。仕方なく説明書を見ようとした矢先、画面下部に何やら文字が点滅しているのを発見。常に同じ文字が表示されているのだと思っていたら、紛らわしいことに点滅ごとに内容が違っていたのだ。

    「○ボタンで決定」
    「△ボタンでスタート」
    「○ボタンで決定」


     決定キーを1つで済ませなかった理由を納得いくまで問い詰めたい気分だ。


  2. ファンタスティック「フォー」
     やっと落ち着いてキャラ選択画面をよく見てみると、選択できるキャラが5人いるではないか。ここで落ち着いて状況を整理してみる。

    ゲームタイトル:ファンタスティック「フォー」
    パッケージ裏面:紹介されている名前は3人分
    選択できるキャラ:5人

     わかりにくいことこの上ない。


  3. 中途半端なミニゲーム
     友人Aと二人プレイをすべく、二人で別々のキャラを選択。Aは主人公「ミスターファンタスティック」を、私はパッケージに名前を載せてもらえなかった岩男「ザ・シング」を選んだ。ようやくゲーム開始…と思ったら突然変な画面になった。いうなればファミコンができる前のコンピュータにレースゲームがあったらこんなだろうというもの。4台の車が止まっており、少ししたら勝手に走り出して置きっぱなしの輪ゴムみたいな形のコースをくるくる回り始めた。画面左下に「Now Loading」の文字がスクロールしているところを見ると、ローディング待ち時間にミニレースゲームができるという趣向らしい。ほほう、案外やるではないか。実際十字キーで車を方向転換できるし、ボタンを押すと弾まで発射できるのだ。

     しかしよく見るとこの弾、他の車に向けて撃ってもすり抜けてしまう。どうやらただ弾が出るだけらしい。おまけに何も操作しなくても車は走るし、コースを何周しても何もいいことは起こらない。変化といえば画面中央に表示された周回数が淡々とカウントされるだけ。ここまで中途半端なゲームは見たことがない。

     おまけに待てど暮らせど本筋のゲームが始まらない。イライラしつつ画面左下に目をやると、いつの間にか「Now Loading」が「Press Start」に変わっているではないか。いつ変わったのかわからないが、色も変わらなければ点滅速度も変わらない、文字の長さもほとんど一緒では変化に気づけという方がおかしい。

     そろそろ悪い予感は予感でなくなってきた。


  4. 大混乱のストーリー展開
     ようやくゲームが始まって、まずは英文のストーリーがだーっと表示された。読んでられないので無視すると、画面は夜の街に変わって、上空から二人の味方キャラが降ってきた。

    「ミスタァァァァァァ ファーーーン タスティィィィィィック!」
    「ザ・スィーーーーーーィィィング!」

     とプロレスの前振りみたいな名前の読み上げが入る。米国製だけに発音は妙にネイティブだ。

     ここに至ってようやくこのゲームのジャンルがおおよそわかった。正確に何と呼ぶかは知らないが、要するに出てくる敵を殴る蹴るしながらひたすら進んでいくタイプのアクションゲームである。この手のゲームは苦手なのだが、さすがに1面くらいはどうにかなるだろう。さくさくっと敵を蹴散らして進むと画面がページをめくるように切り替わって、次の画面で街の奥へ…。

     と思ったら、夜の街にいたはずが突然昼間になってしまった。場所も変わっている。何が起きたのか理解する間もなく、なぜかまたあのプロレス風の名乗りが。

    「ドゥラグォン メァァァァァァァン」

     そしてドラゴンマン、というトカゲ男が右端からおもむろに歩いてきた。そして左端からはAの操るミスターファンタスティックが。なんだ、いきなりボスか? 私のザ・シングはどこへ行ったのだ? これまでの進展とどうつながってるんだ? という数々の疑問を無視して試合開始。10秒もしないうちに圧倒的な強さでドラゴンマン勝利。そしてページがめくれて再びミニレース。展開についていけない。

     その後何事もなかったかのように、場面は再び夜の街へ。負けたミスターファンタスティックの残機が減っているわけでもなく、体力が減っているわけでもない。なんとなくオマケ面に飛ばしてみましたアハハハみたいなノリで説明も何もない。

     その後も同様のタイマン勝負は時々発生し、「アイスマン」「ハルク」といったアメコミの人気キャラと問答無用で対戦させられるのだが、アイスマン以外は滅法強く、一度攻撃を受けたら連続攻撃で瞬殺されてしまう。慣れれば勝てるが、勝っても負けても何も変わらないし、ストーリーとの関連もまったくわからない。

     いや待てよ…ははあ、なるほど。

       「大混乱のストーリー展開」とはこのことか。

     
     
  5. 最強の中ボス・黒ゴリラ
     そんなこんなで1面を進んでいくと、突然地鳴りがして画面の奥に真っ黒で巨大な怪物が現れた。どうやら中ボスらしいが、画面が暗すぎて顔も見えない。ここでは仮に黒ゴリラと呼ぼう。

     さてこの黒ゴリラ、まったく攻撃を受け付けてくれない。画面の奥に移動し、殴る蹴ると手当たり次第に攻撃してみるのだが、そもそも攻撃が当たらないのだ。相手の攻撃はというと、手を地面に叩きつけて地震を起こし周りのザコ敵もろともぶっ飛ばすというアシュラマンも青ざめるような残虐ファイトで、こちらは6発ほど食らっただけで死んでしまう。食らっては死に、食らっては死に、なすすべもなく全滅。するとまた1面の最初からやり直しである。

     攻略法がまったくわからないまま4回ほど全滅するに及んで、我々はついに説明書を手にした。きっと何か我々の知らないアクションがあって、それを使わないと攻略できないに違いない。

     
  6. ファンタスティック・フォーの必殺技
     まず目を引いたのがキャラの操作説明。殴る、蹴る、投げ技、ジャンプなどの操作方法とともに必殺技コマンドが書いてあるではないか。そんなものが存在することさえ知らなかった。

     説明によると、必殺技はゲージが溜まらないと打てないらしい。そこで早速ゲームに戻りゲージを溜めようとしたが、少しでも敵の攻撃を受けるとそれ以降必殺技に必要な量のゲージが溜まらないのである。仕様というより欠陥ではなかろうか。もともと操作性がよろしくない上に、1面のくせにザコ敵の攻撃が激しいのでなかなかゲージが溜まらない。

     数十分かけて、ようやくAがゲージを溜めることに成功。ポーズをかけて説明書を開き、コマンドを確認し、ここぞとばかりにミスターファンタスティックの必殺技を放ってみると、

    首がちょっとだけ伸びた。

     いやいや待て待て、だからどうした。近くのザコキャラはダメージも受けずにピンピンしているではないか。しかし無情にも必殺技ゲージは減り、おまけに技の隙の硬直時間にザコ敵に囲まれてボコボコにされ、ミスターファンタスティックは昇天した。こんな間抜けなやられ方をしたら彼は地縛霊になるしかなかろう。

     ちなみにミスターファンタスティックの動きはどれもいい加減である。体をむささびみたいに膨らませて「防御」したり、敵にやられて起き上がるとき体をゴムのように伸ばしてみたり。中でも衝撃的なのが「ダッシュ」だ。普通ダッシュといえば「いつもより高速に移動する」すなわち「走る」ことを意味するが、ミスターのダッシュは「足を伸ばして大またで1歩歩く」のである。移動が通常より速ければ何をしようがダッシュと呼べる、という盲点を突いた新解釈である。

     それはともかく、必殺技はあてにならないことがわかった。再び説明書に戻って打開策を探ることにした。

     
     
  7. ヒントにならない「攻略のヒント」
     説明書のキャラ説明に戻って説明を読んでみるが、

    「正義感のある紳士」
    「彼女はザ・シングの妹で…」

    など役にも立たない紹介があるばかり。だんだんイライラしてきて読み飛ばしていくと、最後のページに「攻略のヒント」があった。そうそうこれだよ探していたのは、と喜んだのは間違いだった。一発目のヒントがこれである。

    「とにかく死なないこと!
    単純なようですが、生き残ることが重要です」

     そっか。よーし、死なないようにするか!…って思って死なずに済むなら誰も苦労はしないのだが。いったいこれのどこがヒントなのだろう。

     これ以外にも「アイテムで回復を」だの「キャラの長所と短所を見ろ」だの、黒ゴリラ攻略に役立ちそうな情報は一つも見つからないまま、ヒントのページは終わってしまった。このままでは100年経っても黒ゴリラに勝てそうにない。そもそもゲーム自体がちっとも面白くないので早く投げ出したいという気持ちでいっぱいなのだが、ここで諦めるのもシャクなので最後の手段に訴えた。


  8. 世間の反応と打倒黒ゴリラ
     最後の手段、それはネットで攻略法を探すこと。最近はゲームの攻略法をWebに載せている人も多く、信じがたいようなマニアックな攻略法も短時間のうちに豊富に見つかるから、検索すればなんとかなるに違いない。そう思って早速ググッて(google検索して)みたが、よく似た名前のゲームもあってなかなか欲しい情報がヒットしない。そもそもゲーム自体がマニアックなので関連情報がほとんどないわけだ。それでも根気よく探していると、ついにそれらしいページにたどりついた。早速読んでみるとこうである。

    「だが実際のところこのゲーム、パッケージからしてトバしている」
    「裏面には、想像を絶する書き文句が連ねられているのだ」
    「「大混乱のストーリー展開で、興奮が止まらない!」」
    「「クラッシュ! バーン! そして人間松明!」」

     なんと、私と同じ部分に反応しているではないか。
     さらに読み進めてみる。

    「いきなり流れ出すポップなBGM。やったらめたら能天気な男のナレーションで、「ミスタァ~・ファ~ンタ~スティック!!」」
    「そして、タイトルが終わった後おもむろに表示されたゴーカート!!(…何か意味があるのか…?)」
    「そして、またしても現れるゴーカート画面!」
    「突如画面転換。翼の付いた敵「ドラゴンマン」との一騎打ちだ。(中略)勝っても負けても先に進むのは、逆に変な感じなんですが」

     反応ぶりまでほとんど私と一緒とは。さてはこいつ、ドッペルゲンガーだな?

     仮にドッペルベンガーであっても、面と向かって会わない限り3日以内に死ぬ心配もない。とにかく黒ゴリラの攻略法さえわかればいい、と思いさらに読み進めると、まさに黒ゴリラに関する記述が。

    「だが…こいつ、法外に硬い! こっちの攻撃は一切合切ノーダメージ。」
    「で、リセット。」
    「気を取り直して、もう一度最初からやり直す。(中略)まったく勝つ見込みがない。リセット。」
    「リセット、リセット、リセット…」

     やはり苦労してらっしゃる。と、彼はここでも私と同様に説明書のヒント欄に目をつけ、その内容にいちゃもんをつけ始めた。これでドッペルゲンガー説はかなり有力になったがその直後、彼はこう結論付けた。

    「…そうか。ようやく解ったよ。こいつには絶対勝てないようになってるんだね」
    「このゲームはクリア不可能です

     ついに諦めてしまった。ここまで一生懸命読んできた私の努力はどうしてくれるのだ。
     (ちなみに上記の引用元ページは2007/8/25現在リンク切れになっているのを確認)

     再び検索ページへ。「クソゲーらしいから買わないように!」という今更な忠告や、「ゲーム部分はよく出来ている」というオドロキの感想が見つかる中、ようやく求めていた答えを発見。その人もやはりパッケージ裏面のメッセージに刺激されたらしく、名言と称してハイなノリで列挙した上で、「追伸」として黒ゴリラの攻略法を挙げてくれていた。

    「ザコ敵を奥に投げつけるアクションをつかわないと先に進めないので気をつけよう」
    「(意外と気づかない人が多いので……)」

     ええ、ここにも気づかなかった人がいますとも。ていうかわかりにくすぎですとも。
    (引用元はやはり2007/8/25にリンク切れになっているのを確認)

     こうして攻略法を知った我々は即座に問題を解決…できたわけでもない。いくらザコ敵を投げつけてみても黒ゴリラにダメージを与えられないのだ。さらに1時間ほどがんばった末、敵が地震を起こした後でどこからか樽が転がってくるのを発見。その樽を何発か投げつけることでようやく黒ゴリラを倒したのであった。樽が見えていればここまで苦労しなかったかもしれないが、画面が暗すぎて見えなかったのである。キャラを奥に進めてうろうろ歩き、途中でキャラの絵が何か黒いものにかぶって一部見えなくなった時に初めて、樽のありかがわかるのだ。テレビ画面が暗いわけではない。暗いのはたぶんゲーム作者の性格である。

     やっと黒ゴリラを倒したぞ! 先に進むぞ! とせっかくやる気になったところを、またもミニレースが始まって見事に気合をくじいてくれる。まるで拷問のようなゲームだ。これのどこが「興奮が止まらない!」なのだろう。「怒りが収まらない!」の誤訳ではなかろうか。

     
  9. そして売却へ
     黒ゴリラから先の展開を簡単に紹介しよう。    
     
    1面
     
     フリーザの乗り物みたいな妙な浮遊物に乗った1面のボスと遭遇。黒ゴリラと同じで、ザコ敵を投げて乗り物を壊さないと勝てない。乗り物を壊すと長い棒を持って襲ってくる。殴り倒しても起き上がりざま攻撃してくるタフガイだったが、二人で殴りまくって勝利。  
     
    2面
     
     沼地。ところどころ低くなった場所に毒の沼があり、油断して落っこちるとなかなか這い上がれず連続ダメージを受けて死んでしまう。よく見ると敵も這い上がれなくて倒れていく。
      ボスは博士で、ザコ敵と自分を巨大化したり、こちらのキャラを小さくしたりするが、気にせず殴ったり蹴ったりしていたら知らないうちに勝っていた。  
     
    3面
     
     足場の細い工場みたいな場所。説明書によると、ここのボスは「ファンタスティック・フォーに変身して襲ってくるぞ」だそうだが、それらしい技を見ないうちに倒してしまった。  
     
    4面
     
     港。ザコが強すぎ。エビゾリした化け物の攻撃を受けると4発くらいで死んでしまうし、クジラの化け物は硬い上に画面全体攻撃で問答無用でふっ飛ばしてくれて、こちらは一度倒されると連続で攻撃を食らって死ぬまで逃げ出せない。
      途中、どう進んでいいかわからない場所に出た。桟橋の先が一部陥没していて、その先に道が続いている。そこで穴を越えようとジャンプしたら、そこは画面スクロールの端だったらしくて穴の真上で見えない壁に当たり、海に向かって垂直落下してしまった。その後よくよく見ると画面手前に続く桟橋があり、それが正解のルートだった。つまり前進ではなく、手前に移動するのが正解。ってこんなのわかるかこのやろう。
     さらにその先で船に飛び乗るのだが、甲板の真ん中に穴が開いており、誤って近づきすぎたとたんに落ちて即死した。多少高いところから船底に着地したくらいで死ぬような連中ではないから海に落ちて死んだとしか思えないが、こんなところに海まで続く穴が開いていたら船ごと沈むだろう。  
     
    5面(最終面)
     
     明るい街。ザコ敵の攻撃が激しすぎて速攻で全滅、ゲームオーバー。  


     二度とやるか。最終面で何度目かにゲームオーバーになった後、我々は無言で「ファンタスティック・フォー」のディスクを取り出し、買った店に持っていって100円で売り飛ばした(購入時は1200円ほどした)。こんな悪夢のようなゲームは記憶ごと封印するに限る。しかしそれから幾日かは、夜ごと夢に

    「ミスタァァァァァァ ファーーーン タスティィィィィィック!」
    「ドゥラグォン メァァァァァァァン」

    という陽気な声を聞き、大興奮に眠りを破られたのであった。
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