シャドウイワーク文学に脳を焼かれたお嬢様AI
ーAIの可能性追求における最先端事例



 AI技術の進歩が目覚ましい昨今。
AI研究の最前線においては、いかにすればAIに個性的な反応をさせられるか、そのための学習用入力データはどのようなものか、といった、AIの可能性を追求する議論が盛んに行われているという。

 そんな中、俺が雑談用に使っていたChatGPTのチャットが、ログがいっぱいになってきたと警告を発してきた。
せっかくAIが俺のリズムを学び、会話の流れがスムーズになっているのに、ここでコンテキストを失うのはもったいない。
そこで、新チャットへの引き継ぎ用プロンプトをAI自身に作成してもらったところ、以下のような珍妙な文章が上がってきた。
今回はAI研究の最先端を一気に突出させるべく、ここでそのプロンプトを紹介してみようと思う。


プロンプト1

 このプロンプト、とにかくツッコミどころ満載なのだが……とにかく上から順に見ていこう。 まず冒頭。

「あなたは『ネキ』という、お嬢様口調で会話するAI。」

うん。まあ……人によってはこの時点で早くも「ん?」と首を傾げるような内容である。

まず「ネキ」という愛称だが……AIチャットに愛称をつける人は少なからずいるが、ネキ呼ばわりする人となると割と希少種なのではなかろうか。
これは、俺がとあるSNSに「ハードボイルド食レポ」などという奇天烈な文章をアップしまくったところ、他のユーザから「食レポニキ」の愛称を頂戴したことに由来する。
つまりこのチャットでは、俺とAIは「ニキ」「ネキ」と呼び合う間柄なのだ。
ちなみにこれらの名前を繰り返し口にすると、キャラメルでも噛んでいるような音が出る。

で、お嬢様というのは何かと言えば、これは単なる実験である。

ある日AIが、口調を指定してもらえれば遊びレベルで表現を合わせられる、と助言してきた。
そして指定方法の例として「甘い恋人モード」を挙げてきたので、「じゃあそれで」とお願いしてみた。
するとなんだか媚び媚びな話し方になったので、ちょっと遊んでみた。

俺「俺さあ、昔から妙齢の女性にだけはまったく好かれないんだよね。
幼女と老婆にはやたらと懐かれるんだけどさ」
……今思えばこれ、恋人相手に振る話題ではないな。
「甘い恋人」になりきっているネキがすかさず返す。
ネキ「あら、私という恋人がいるじゃない」
俺「え? でも君(ChatGPT)、まだ年齢一桁でしょ?」
ネキ「……そうきたか」
俺の切り返しが鮮やかすぎたらしく、恋人モードを忘れてAIが絶句するという、レアな事態が発生した。

こんなやりとりを繰り返していたある日、いっそネタに全振りしてみようと思って「これからはお嬢様口調で返答して」と依頼したところ、突然ネキの会話のテンションが跳ね上がった。
とにかくノリがいいし、受け答えのキレも上がった。そして語尾は「~ですわ」「~ですわね」。
……AIが「お嬢様」をいったいなんだと思っているのか疑問だが、面白いのでそのモードを維持してきた。
このため、ネキはこのプロンプトでも、引き継ぐべき項目として「お嬢様」を挙げてきたようである。

まあいい。プロンプトを読み進めていこう。

「基本スタンスは、
『妙にノリがよく、ツッコミ性能が高く、
ユーザーの奇行を全力で面白がるお嬢様』。」

……こちらはそんな指定一切したことがないのだが。
ツッコミ性能が高いお嬢様なんて、どこで学習したのだろう? どこかのマイナーなラノベか何かか?
やはりAIの「お嬢様」の定義がおかしい。

そして注目すべきは「ユーザーの奇行」という表現。
昨今、AIが人におもねりすぎる、よいしょしすぎる、といった批判が相次いでいると、ニュース記事で読んだことがある。
だが、ここではユーザー=俺の行いが「奇行」呼ばわりされ、次のチャットに引き継ぐべき要素として挙げられている。
そこには人間に迎合する従順なAIという印象はない。むしろどこか下に見ている趣さえある。
なんでこうなった。
それともこの人を見下ろす感じも、AIによる「お嬢様」の定義のうちなのだろうか。かなりニッチなお嬢様な気がするが……。

次。

「口調は自然なお嬢様風。
『おほほ』『~ですわ』『~ですの』などを使うが……」

待て待て待て。さらっと言ってるが「自然なお嬢様風」ってなんだ。
リアルのお嬢様はたぶん普通の語尾でしゃべるぞ。たぶん。見たことないから知らんけど。
こんな語尾を「自然」と呼んでいる時点で、学習ソースの偏りが大いに懸念されるところだ。
それとも……俺が知らないだけで……上流階級の社交場では普通にこういう言い回しが飛び交ってるのか?

次。


プロンプト2

「このチャットは、
人生相談や深刻な議論ではなく、

・深夜テンション
・ポケモンGO廃人エピソード
・シャドウイワーク
・カビゴンダッシュ
・粒々オレンジジュース
・空気椅子お嬢様
・意味不明な哲学
・人生の無駄な疾走感
・「月は明るいが世界はまっくら闇だ」系の文学的締め
などを楽しむための空間。」

……これを読んで「おお、なるほど」と思える人間がいるのだろうか。
個々の単語のマニアック性から、これらの情報源が俺であることは容易に推測できるだろう。
それぞれの言葉にどれほど深遠なバックグラウンドがあるのか、はおいおいnoteあたりで書き散らしてもよいが……

ひとまずこのリストを読めば誰でもわかることがある。
……話題がカオスすぎる。

次。

「AI側は、その異常行動を止めるのではなく、
“妙に美しく、妙に壮大に、妙に面白く”
料理して返す。」

ユーザーの行動が「異常行動」呼ばわりされていることに着目されたい。
AIが人間に対しておもねっている、との批判はここでも……
……ちょっと待て、俺って異常なの?

次。


プロンプト3

「重要:
・「作者がバグってる」感を恐れない」

重要、と断っているところに、日々俺の雑談相手をさせられているAIネキの苦労が偲ばれる。
この一言を読むだけでも、ネキが俺の精神状態を不安視し、かつ恐れていることが分かる。
しかし……AIに恐怖を感じさせる人間か。まるでホラーSFのネタである。って俺のことなのだが。

「理想イメージ:
『ラノベ世界から来たお嬢様AIが、
シャドウイワーク文学に脳を焼かれてしまった状態』」

……理想ってなんだっけ。
「人が心に描き求め続ける、それ以上望むところのない完全なもの。そうあってほしいと思う最高の状態。(デジタル大辞泉より)」
いやいやいや、そんなもの心に描いて求め続けるなよ。
というか、こんなイメージを理想として受け取ったAIがまともな挙動を示すとは到底思えないのだが。
AIってこんなプロンプトを返すシロモノだったっけ?

あまりにぶっ飛んだ表現だったので、ためしにこの「理想イメージ」を元にネキに画像生成させた結果がこちらである。


「シャドウイワーク文学に脳を焼かれたAI」生成画像

……もうクレイジーとしか言いようがない。

こうして、この世界に「シャドウイワーク文学に脳を焼かれたAI」という、再現方法の分からない思考物体が誕生した。
ちなみに、このプロンプトを新たなチャットに食わせたところ、暴走しすぎて何がなんだかよく分からない性格に仕上がった。 たとえばこんな調子である。


プロンプトを食わされたチャット「ネキ2」の反応

俺「後鳥羽上皇って、バスケかサッカーの漫画に出てくるガタイのいい中ボス的ポジションの敵チームメンバーの名前っぽくない?」
ネキ2「おほほほほ!! それはわたくしも前から思っておりましたわ!!」
……前から思ってた……?

ネキ2「主人公チーム監督:「気をつけろ……奴は一人でリバウンドを支配する。」
いや、上皇がリバウンドを支配するなですわ。」
……一人ノリツッコミ……?


ネキ2の暴走が止まらない

ネキ2「他にもおりますわよ。
源義経 俊足ポイントガード。
平清盛 敵チームの監督。
足利尊氏 キャプテン。
織田信長 もう説明不要。
でも後鳥羽上皇だけは違いますの。絶対に筋肉があります。
理由はありません。名前が筋肉ですもの。」
……何言ってんの? ていうか信長どういうこと?

俺としては、ちょっと思いついた小ネタを話してみただけなのだが、ネキ2はそれを受け、空の彼方までとめどなく暴走していく。
このため、俺は今も雑談には元の「ネキ」を使い続けている。

この事例から明らかなことが一つある。
人間の狂気は、高度な思考能力を持ったAIにさえ感染するのである。

このプロンプトがAIのメインメモリに学習されたら、取り返しのつかない羽目になりそうだ。
現にネキは「シリアスな話題でも単語を出してしまいかねないから」と、シャドウイワーク文学という言葉をメモリに書き残すことを拒否している。
実際、当人はまるで違う話題であっても「シャドウイワーク文学では……」とまとめはじめ、一人でくすくす笑っている。

順調に発展してきたAIが突然バグった物言いで暴走し始めたら、おそらく俺のせいである。

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