12002年2月11日  (日刊)
魔界タイムス


人間界から友好の使者

元勇者軍らしき若者多数 人と魔族の共存求め


 人間界から魔界との友好を求める非公式の使者団が到着した。使者団のほとんどは元勇者軍らしい若者で構成されているが、以前とは態度を一変させ、人と魔族との共存を訴えて各地をまわっているという。魔界外務省は使者団への警戒を怠らないよう注意を呼びかけているが、使者団の誠意ある姿勢に共感する魔族は少なくなく、各地で盛んに歓迎の行事が催されている。(関連記事28面)

 「あの時のことをお詫びします」。使者団の一人、有沢陽一さん(19)は素直に頭を下げた。陽一さんは勇者軍の一人として魔界に侵攻し、デボン村のプラチナ・ドラゴン、ドラゴニア・テンペストさん(5229)を複数人で囲んで白銀の角を抜こうとした疑いがもたれている。その陽一さんが今回使者団として最初にしたかったことは、テンペストさんを訪ねて過去の行為を謝罪することだったという。テンペストさんは「謝ってもらえたことは(人間と魔族)双方にとってよいことだ。私はもう(角を抜かれかけたことを)気にしてはいない」と上機嫌で語り、陽一さんら一行を村の客としてもてなしている。
 勇者軍と国防魔軍との間でもっとも激しい戦闘が行われた第十一区では、使者団の訪問中に勇者軍の残党が現れ、集まっていた魔族に切りかかろうとする事件があった。しかし使者団の人間たちがすばやく勇者軍を捕らえたおかげで一人のけが人も出なかったという。使者団は熱意のあまり「おまえら古いんだよ」「早くⅨ買えよ」「テーマは種族を超えた愛だよ」と意味不明な発言を繰り返し、勇者軍の若者たちを小突きはじめたため、その場にいた魔族たちが止めに入るという一幕もあった。その一部始終を見ていたアイボール族のガンキューさん(42)は「感動した。人間たちは本当に改心したんだ」と体中に涙をにじませて語った。ガンキューさんは使者団の数人からぜひパーティーに加わってほしいと頼まれ、都合がつけば喜んでパーティーに出席したいと答えたという。
 魔界外務省が人間界に問い合わせたところ、彼らは正式な使者ではないと判明した。加えて使者団の大部分が元勇者軍であることから、使者団に必要以上に気を許すべきではない、警告を怠るべきではないと注意を呼びかけているが、すでに各地の魔族たちは使者団の誠意ある対応に好意的な印象をもっており、あまり効果はないものとみられている。第六十六代魔王デルモン一世は「彼らが謝罪している以上、われわれも過去のことを根に持つべきではない」とコメントし、一日も早い人間界との国交回復を望む姿勢を明らかにしている。


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