お国柄食堂マンチェスxサンチェス



 

こちらで紹介されていた、日村の『お国柄食堂マンチェスxサンチェス』で沖縄そばとラフテーを食ってきた。

繁栄と退廃の街、日村。その影の支配者とも噂される学園、KO。昼飯時になると、この国の未来の支配者たちが校門から一斉に溢れ出て街へと繰り出し、イナゴの群れの如く飲食店を襲い始める。

嫌な時間帯に来てしまったな。俺は物陰から奴らの様子を探る。ここで出遅れて支配者どもの列の後ろに並ばされれば、目当ての店の食い物を根こそぎ食われかねない。「すいません、今日はもう◯◯終わっちゃったんですよ」「えっ、まだこんな早い時間なのに?」店員とのそんな会話が脳裏をよぎる。

しかし俺の心配は杞憂だったようだ。
今日の店、お国柄食堂に支配者どもの姿は見当たらなかった。

「カウンター、空いてるよ」
店に入ってすぐに合点がいく。元プロレスラーとおぼしき店の男の威容。南国の薄いシャツをはち切らんばかりの体格。今まで幾人の支配者がこの男に出迎えられ、めんそーれされてきたことだろう。

メニューに目をやる。ソーキそばは単品950円。ランチセットは沖縄そばにおかず一品、茶が選べて1000円だと? 決まりだ。
ところでうっちん茶とは何だ。どこかの芸能人の創作だろうか。
知らない物は食ってみる。それがこの謎に満ちた世界に訳もわからないうちに投げ込まれた俺たちにできる、唯一の抵抗だ。

注文は割と早く出てきた。
まずはうっちん茶だ。うん、なんだ。形容が追いつかない。何を持ってきてどう加工したらこんな独特な風味が出るのか。謎が謎を呼んでしまった。

続いてラフテー。箸をつけたとたんにまるで抵抗なく切れる。これ、箸で食えるのか? と一瞬不安になるほどの柔らかさ。当然、口の中でほどけ、とろける。こいつは美味い。一口ごとの満足感が信じがたい。

沖縄そばも美味い。かつて訪れた沖縄の首都。レンタカーで島中を駆け回った日々。青い空、青い海。窓を開け放てば心地よい初夏の風。思わず口をついて出た歌は『雪の降る町を』。その物悲しいメロディに涙がこぼれたのを思い出す。
あの街のそばは美味かった。行き当たりばったりに入った店がことごとく美味かった。あの驚愕を、この店のそばは思い出させてくれる。

再訪したい店がまた一つ増えた。
俺は満ち足りた気分で店を出ると、支配者の群れを避けて次の目的地へと向かった。


メニューへ