コンマWAR



 
 

テイクアウト専門の韓国料理屋「コンマWAR」に行ってきた。

ダビデがティファールを手に闊歩する街、津田島。
津田島駅から大津田橋を渡り直進すると、その店が右手の曲がり角にあった。

……あったのはいいが、入り口がどこだか分からない。
街道側の入り口は半分シャッターが降りているし、店というより住宅の入り口に見える。脇道の側の壁にはメニューが貼ってありいかにも飲食店の趣だが、中がまったく見えない引き戸が閉め切られているだけで、入り口とはっきり書かれてもいない。

休み……なのか?
俺は出直すことにした。

翌週、再訪。やはり引き戸は閉め切られたままだ。これ強引に開けて中に入ったら住居不法侵入とかにならないか? 頭をよぎる懐メロの歌声とパトカーのサイレン。想像した以上に騒がしい未来が俺を待っていかねない。
構わない。うまいもの探しにリスクは付き物だ。うまい飯か、臭い飯。いずれかは食える。
意を決して引き戸に手をかけ、思い切り開けた。
「いらっしゃいませー」
とたんに響く、韓国語訛りの効いた二人分の店員の声。店、普通にやってた。

テイクアウト専門店とのことで、店内は狭い。すぐ目の前に店員1。天井の構造物に遮られて見えない右手に店員2。あと客が3人も入ればぎゅう詰めになるだろう。
店員2の腕だけがにゅっと現れて壁のメニューを次々指し示す。
「チキンはお時間かかります。これ(チヂミエリア)今日ないです。これ(トッポギエリア)も今日ないです」
とんでもなく悪いタイミングで来店してしまったようだ。まあいい、ビビンバを注文するつもりでいたから……
「これ(ビビンバエリアをざっくり指して)ないです」
……ええと、何ならあるので……?

仕方なく、唯一まったく何も言われていない海苔巻きエリアから、店名の入ったコンマWARキンパを注文した。店員はキムチをオマケしてくれた。
……が、落胆は隠せない。キンパってあの、恵方巻きの親戚みたいなやつだろ?言うてもただの海苔巻きだろ?俺が食いたかったのはもっと韓国韓国したやつだ。

帰宅して改めてパックを見る。なんかデカい。これほんとに一人分か?
その昔、韓国のサムギョプサル屋で一人飯を食っていたら、たまたま目が合った地元の若者が(嘘だろ……一人で飯食ってる……)と言わんばかりに漫画の如く口をオーの字に開けてフリーズしたのを思い出す。ひょっとして韓国では、お一人様向け飯パック自体がレアなのか?

機械的に一切れ口に入れた俺は……漫画のような顔でフリーズした。うんまっ。ちょっと待て。なんだこれうんまっ。
そこからは半分記憶にない。俺の心はキンパという名の桃源郷で軽やかに遊んだ。次々と味覚を喜ばせる多彩な具材。それを包み込む白米と韓国海苔とのハーモニー。誰だ、これを疑似恵方巻きみたいに呼んだやつは。

韓国料理は、美味い。だが通い詰めたくなるほどの店に国内で出会ったのは、これが初めてだ。なんなら次もタイミングが最悪でキンパしかなくたって構わない。むしろ遊べ。キンパの桃源郷で遊べ。


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