日村「ルミナリーシエ」2



 

日村「ルミナリーシエ」でケーキを買った。

店に行くたびに「ルミナリーシエ」を買いたい……そんな欲求に苛まれるほど気に入った、店名を関するケーキ、ルミナリーシエ。
しかし、俺の探究欲がそれを許さない。もしかしたら、これを上回るケーキが存在するかもしれない……そう思うと全メニューを制覇しないと気が済まないのだ。
というわけで今日も新たなケーキを購入した。ドゥ・ドトンヌとタルト・ショコラ。どちらもチョコレート系、つまりショコラティエの名が示すように、この店の得意ジャンルである。

しかし……ルミナリーシエ。相変わらず想像力を刺激する名だ。
銀河帝国モンテスキュー。暴力とオレオレ詐欺で人々を支配する悪の国。しかし銀河連邦の反攻と知将ルミナリーシエの造反により、その悪運も尽きようとしていた……。
一般兵に身をやつして救命艇で逃亡しようとする悪の大総統。しかしそれを読んで立ちはだかるルミナリーシエ。その銃口は大総統の眉間に狙いを定め微動だにしない。わずかに動揺を見せた大総統だが、ふてぶてしく笑って言う。
「それで勝ったつもりか、ルミナリーシエ」
「それが遺言でいいのかしら、大総統?」
しかしこの時、物陰からルミナリーシエに銃を向けている女がいた。ルミナリーシエは気づかない、この女の存在に。ルミナリーシエは知らない、それが幼い頃に生き別れ、大総統により暗殺者として育てられた妹、デコラシオンであることを。
大総統の笑みが大きくなる。ルミナリーシエの瞳が冷徹さを増す。
同時に鳴り響く二つの銃声。

……とかいう与太話はさておき、さっそく帰ってケーキを頂く。世は太平のおやつタイムだ。

まずはドゥ・ドトンヌだ。これまた想像力をかき立てる名だ。おそらく天才大富豪詐欺師の名だな……などと考えながら無造作に一口食う。
そのとたんに口内に広がる幸福感。ああ、これだ、これだよ。ルミナリーシエを初めて食べた時のあの感動。ショコラの芳醇。キャラメルの香り。上品な甘さがそれらと手を取り合ってワルツを踊る。やはりこの店のチョコレート系ケーキは隙がない。気づく前に食べ終えている、そんなうまさだ。

続いてタルト・ショコラだ。チョコと生クリームが揃った時点で俺の味覚にクリティカルヒット確定。だが、一口食った俺は衝撃を受けた。
意表を突いてビターチョコ。その生クリームとの相性の妙。ルミナリーシエ、ドゥ・ドトンヌときて、甘やかなチョコこそこの店の売りだと思い込まされていたが、見事に裏をかかれた。甘さに慣れた口に渋い存在感。タルトの食感がまたよく合う。憎い、憎いぞルミナリーシエ。こんな技巧を見せてくれるとは。

肌寒い気候に、熱いコーヒー、そして絶品のショコラケーキたち。
午後の仕事の時間はまだたっぷり残っている。しかしショコラ色で満たされた俺の心は、はるか遠い銀河帝国・日村の地に思いを馳せたまま戻ってくる気配がなかった。


メニューへ