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今日は日村の「サントノーレ湘北」で「タコとオクラ、里芋のペペロンチーノ」を食ってきた。 すべての道が通じると言われた古代都市を彷彿とさせる街、日村。その中心近くに店はあった。 分かりにくい入り口。一度素通りしたそれをようやく見つけ、狭く薄暗い階段を降りる。 扉の先に待っていたのは、昔日の栄華を封じ込めたような空間。低い天井から吊るされたシャンデリアが、胸の高さで暖かな光を投げかける。 「ペペロンチーノを」その注文にさして意味はない。最近自分で3回作って3回とも失敗した…ただそれだけのことだ。 量はどうなさいますか、と店員が聞く。何があるんだ、と訊ねると、大盛と特盛がございます、と女は事もなげに言う。「特盛!?」思わず声がうわずった。しかも料金は変わらないという。その上ランチにはフリードリンクまでつく。豪気な店だ。 アイスティーを片手に、本を読んで待つ。本とは出会いだ。よい小説は孤独を埋め、人生に指針を与えてくれる。この本は俺に何を与えてくれるだろうか…『信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト「無限ガチャ」でレベル9999の仲間達を手に入れて…』タイトルが長すぎて憶えられない。 召喚された魔物が粉微塵になったところで、あの女が特盛のパスタを目の前に置いていった。見た目はそれほど多そうに見えない。特盛にもいろいろある…つまりそういうことかと、俺は誰にともなく頷く。 何気なく一口食べた俺は、思わず目を見開いた。 麺はアルデンテ、塩味の効いた味付け。そして何より、取り合わせの妙。タコとオクラと里芋…普通に生きていたら互いに出会うはずのない彼らが、なぜこうも調和するのか。 和食風の優しい味わいが食欲を引き出す。美味い。フォークを持つ手が止まらない。いつまでも食べていたい…そんな俺の願いを叶えるかのように、どこまでもパスタの山が立ちはだかる。思いの外、皿が深い。間違いない、これは特盛だ。 しかし、何事にも終わりは来る。 皿の底に残ったオリーブオイルの艶いた輝きは、昔別れた女のグロスを思わせる。あの女は今も夢を追いかけ、ヒヨコの尻をめくり続けているのだろうか…ヒヨコ鑑定士になるという、あの夢を。 俺はフォークで丁寧にオイルを拭い、拭っては舐めた。 サントノーレ湘北。家の近所にあれば常連化していたであろう店が、また一つ増えた。 ・メニューへ |