彼の能力


 ああ、なんてことだ。みんながあっけにとられてこっちを見ている。

 ……昔から、普通の人と異なる能力を持つ者は、それを他人に知られてはいけない ことになっている。それは暗黙の了解、この世が始まったときから決まっている ことなのだ。異能力を持つことを知られてしまったら、その人間は、

人間界を去らねばならない。

 ずっと、僕は僕の持つ特殊な能力をひた隠しにして生きてきた。他人に見せびらか そうとか、優越感にひたろうなどという欲とは無縁だった。僕は恐れていたのだ。 この力が人々に及ぼす影響を、そして、そのとき僕の身に降りかかる神の罰を。
「卓也、おまえ……」
 竜也がうわずった声をあげた。ほかの連中は目をまんまるにしてこっちを見つめる ばかりだ。
 知られてしまった。力を使ったところを、偶然とはいえ見られてしまった。こう なったらもうどうすることもできない。事実を認めざるを得なかった。
「そうなんだ……僕は普通の人間ではないんだ」
 僕は胸が張 りさけそうな気分で、真実を語りだした。せめてみんなをだましてきたことを 謝っておきたい、その一心で。
「僕には……僕には空気中の一部の塵にモーメントを与えて 回転させ、それによって起こる微弱な風圧で窒素分子に運動エネルギーを加え、 局所的なエントロピーをあげることによって大気のバランスに乱れを生じ、体感 不可能な程度の温度上昇を起こし、地球環境に微小な影響を与えることができ、 しかもそのときジャックに「ヘイ、今日の天気は 最高じゃないか」と声をかけられても、「そうだな、きっとコンドルが南西15°の 方向で穏やかな叫び声をあげているんだろうな」と無意識に答えられる という能力があるんだよ……」
 ついに言ってしまった。僕はみんなを見回した。ぽかんとした顔、顔、顔。もう彼ら に会うことはないだろう。僕は彼らに背を向けて駆けだした。
 途中で一度だけ振り替えると、みんなまだその場に立ちつくしていた。そうだろう。 それが当然の反応なのだ。僕は唇を噛みしめ、心のなかでつぶやいた。

(さようなら、人間界)


終。


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