風の兄弟


 春になると、ぼくたち風の兄弟はお花見をする。
「きれいだねえ」
「うん。きれいだねえ」
 そうやってため息ばかりこぼすものだから、桜の花びらはあっという間に吹き散らされてしまう。気まぐれな春はこれに怒ってどこかへ行ってしまう。
 夏になると、ぼくたち風の兄弟は居眠りをする。暑くて何にもやる気が起きないんだもの。そうして目を覚ますとあまりの暑さに驚いて、ぼくたちはふうふう息を吹いて空気を冷まそうとする。でももう遅い。木々は暑さに葉を真っ赤にしていて、その色は元には戻らない。そうして夏は重い腰を上げてどこかへ行ってしまう。
 秋になると、ぼくたち風の兄弟は紅葉狩りをする。
 どちらが多く葉っぱを落とせるか競争するんだ。ぼくらは夢中になって息を吹きつけ、紅葉を次々に散らしていく。あんまり夢中になりすぎて、いつしかたくさんあった葉っぱは一枚残らず散り落ちてしまう。裸になった木々は寒くてぶるぶる震えだす。紅葉の絨毯を踏みながら、秋は軽やかにどこかへ行ってしまう。
 冬になると、ぼくたち風の兄弟はいつも喧嘩をする。
 春も、夏も、秋も、ぼくたちのせいでどこかへ行ってしまう。でも自分のせいだなんて思いたくないから、お互い相手のせいにするんだ。ため息をついて桜を散らしたのは誰? 怠けて居眠りばかりしてたのは誰? 遊び過ぎて木々に寒い思いをさせたのは誰? ぼくらの喧嘩は荒れ狂う風となって、ごうごうと大きな音を立てる。そのうち疲れておとなしくなるのを見計らって、優しい太陽がぼくらをなだめにかかる。おかげで雪は溶けてしまうけれど、ぼくたち兄弟は仲直りする。桜の木は喜んで花を咲かせる。いつしか冬はどこかへ行ってしまう。